
【小説伊勢物語 業平】髙樹のぶ子著:日本経済新聞出版(右写真)を読み、印象に残った箇所を紹介します。
①
… 烏帽子や冠を脱ぐ、というのは何かしら成人男子としての力を我が身から外すような気がして心もとなくなってしまう。 …
P37
②
… 死者に触れたなら、三十日は外出を慎まねばならない。弔問のみであっても、不浄の身は遠慮せねばならないことが多いのに、この手で抱いたのである。 … P49
③
… 人が人を裁き殺す、ということに漠たる畏れが持たれていたのも、刑死によりこの世に残る魂は、生き残る都人たちに、災いを及ぼすと考えられていたからでもあります。 … P76
④
〈伊勢斎宮にて〉
… 死は奈保留〈なおる〉、病は夜須美〈やすみ〉、哭〈な〉くは塩垂〈しおたれ〉、墓は塊〈つちくれ〉のように、言い換えねばなりません。
いずれも、忌まわしきことを柔らかく変えて申します。白木の世を言の葉で汚してはならないだけでなく、唐より入り来た仏教の言い方も、ここでは排しておるのです。 … P329
⑤
… 唐より来た文字の真名には、唐の思いが宿るが、仮名にて読まれるこの国の和歌は、この国の人の思いとして伝わり残るのを、 … …
P406
①~③の他にも、当時〈9世紀後半~10世紀前半〉の人々の思いや考えがたくさん書かれていました。
とくに③のことより、死刑でなく、安芸、阿波、隠岐などへの島流しが多く行われたことが理解できました。
④⑤より、当時すでに、日本本来の文化を大切にしようという気運が高まっていたことを改めて知りました。
菅原道真が遣唐使を廃止したのも、その頃だと記憶しています。
話が逸れるかもしれないけど、道真も業平も藤原氏によく思われていなかったんですな。
千年以上も前の歌物語を、よくぞ現在の私たちが楽しんで読めるような小説にしてくれました。
まさに髙樹のぶ子氏の圧倒的な表現力のなせるわざです。
在原業平 … いい男ですな。
最後に彼の歌を二つ紹介して、感想を閉めたいと思います。
・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
P316
・つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
P454
