【私の大事な場所】ドナルド・キーン著:中央公論新社(右写真)を読みました。
公平な視線で日本の文学を見ているように感じました。
今回は、著書のあるくだりから思い出したことを述べます。
P143~144
… 東洋の言葉でローマ字表記になった唯一の言葉はベトナム語でしょう。17世紀のフランス人宣教師は、ベトナム語を漢字よりも簡単な表記にしたら能率的であると意見しました。この案は採用されて、現在ベトナム人は、皆ローマ字を使っています。 …
25年前、私は、ベトナムのホーチミン市で3日間滞在しました。
その間、バスに乗っていろいろなところを回りました。
モスクワ大学に留学したことがあるというガイドさんは、日本語もとても堪能な方でした。
ドイモイ〈経済開放〉政策が始まって10年ほど経った頃で、人々の間には活力と自由な空気が漲っていました。
ガイドさんにも社会主義然とした雰囲気がまったくなく、
「日本のみなさん、お金儲けガンバっていますか。 … さて、ベトナムで人気のあるテレビ番組は何だと思いますか。 … 『おしん』です。 … ベトナムの人たちは日本の女性は『おしん』のように我慢強い人ばっかりと思っています … 。」
等々、おもしろく楽しくガイドをしていただきました。
民族資料館に案内されたときでした。
そこのあるコーナーに、〈日本でいう〉高床式倉庫らしき写真が展示され、漢文の説明が添えられていました。
私たち日本人の旅行者は、
「ベトナムもかつては漢字圏だったんですね。 いくつかの漢字を拾って読んでいると何となく意味が分かりますね … 。」
というような話をしました。
で、ガイドさんに正確な意味を尋ねると、漢字がまったく読めないのでわからないとのことでした。
〈再度言いますが、ガイドさんはモスクワ大学に留学されたエリートです。〉
そのとき、次のように思ったことを覚えています。
… かつて漢字を使っていた国は面倒でも漢字を残しておいた方がいい。そのことが自国の文化や歴史を深く知ることにつながるのでは。 …
キーン氏も言っています。
「便利さが人間の最高の目標になってよいのでしょうか。私はむしろ、文化は不便の上に立つものではないかと思います。 … P161
と。