【日本のこころ】を読む

【日本のこころ】岡潔著:講談社文庫

【日本のこころ】岡潔著:講談社文庫(右写真)を読んで印象に残った箇所を紹介します。

 


… … 日本は滅びる、滅びると思っていても案外滅びないかもしれない。というのは、日本民族はきわめて原始的な生活にも耐えられるというか、そういうところがあるので、自由貿易に失敗して、売らず買わずの自給自足となっても、結構やっていけそうにも思えるからである。然し日本の不思議な勤勉さ〈や親切さ〉のもとは、どうしても大脳新皮質としか思えませんから、そこだけは大切に守って下さい。 … P302


… パリへ行って、日本にあってここにない何か非常に大切なもののあることを覚り、〈それが「情」であるとはすぐわかったが、それが日本人にどうはいっているかを見ようとして〉日本人〈原型の〉はどんな人か見ようとした。始めはそれを芭蕉翁に求め、ここでいわば鉛筆で素描し、墨を入れるために、十数年道元禅師〈村上天皇7世の孫〉を『正法眼蔵』に追い求め、ついに「生死去来」の4字に追いつめ、これに思いを凝らして彼に会い、日本人の原型を見ると共に自分もそうであることを知った。 … … 日本人は、自分が既にそれであるか、まだ途中であってそうなっていないかを問わず、この日本人原型の自覚がないと、国の内に向けても、外に向けても使えない … … 。
P344~345

※ 著者:岡潔〈おか きよし〉について
純正数学の研究に没頭し、「多変数複素函数論」の分野における「三大問題」といわれる難題に解決を与え、世界的な数学者として認識される。

 

①より
” 失われた30年 ” とよく言われますが、要はここ30年、日本の自由貿易がうまくいかなかったということでしょうな。
その影響か、私の住んでいるところもジリ貧に近い状態ですわ。
が、筆者の言う通り、勤勉さやお互いに助け合うという親切さで何とか暮らしています。
そのような国民の美点に、為政者や企業等のリーダーが甘えているような気がしてならないのですが  … 。

②より
筆者は若い頃フランスに留学され、フランスには日本にあるような「情」がないと気付かれたようです。
それで、日本にあるような「情」の源、つまり日本人の原型を探るべく芭蕉翁や道元禅師に目を向け、彼〈筆者〉にもそれがそなわっていることを知りました。
そしてそれを自覚しない限り自国民とも他国民ともうまく交われない、とも言っています。

私こと
歳を重ねるごとに〈現在66歳〉、心のふるさとに近づいていっている感じがし、また、そこはどんなところなのか、いっそう知りたくなってきました。
心のふるさとを彼の言葉でいうと、日本人の原型ということになるかもしれません。
これを機に、芭蕉、道元関連の本も読もうと思っています。

 

【日本のこころ】岡潔著:講談社文庫は再読です。
若年の頃より今の方が理解できました。
彼がこのエッセイを書いたときの年齢と今の私の年齢がほぼ同じ、ということも関係しているのかな
。                                         

雪の日に『引き際』について考える

木立前が雪景色に 2022 12.18 10:40AM

〈午前〉10時過ぎからみぞれが雪に変わりました。(右写真)

本日の気温は2℃止まりとか。

薪ストーブを焚いてプレハブ内に籠ることに。

 

ネット動画を見ていると、成田悠輔氏〈経済学者:イェール大学助教授〉が、『引き際』の大切さについて話をなされていました。

「 … 日本が活性化できない理由の一つに、諸々の組織、団体等〈とくに政界と芸能界〉で高齢者が引退してくれないことがある。しがみつけるまでしがみついているというのは如何なものか。 …  『引き際』のモデルを示すのも一つの手なのに … 。」

といった内容でした。

 

… 同感 …

自分の『引き際』を思い起こしました。

真剣に『引き際』について考えたのは、定年退職1年前〈59歳時:今から7年前〉でした。

そのときの家庭の状況は、

・借金なしで蓄えが少々。
・大きな災害が起こらない限り
自宅は死ぬまで何とか持ちそう。
・子どもたちはすべて一人立ち。
・両親は健在。
・〈2歳年下の〉妻は現役で働いている。

… でした。

その一方で、ジャングル同然の木立〈ほぼ集落の中央に位置し、広さは0,5ha〉の手入れに追われていました。

で、『引き際』についてそれほど悩むことはありませんでした。

 

生活にお困りでないお歳を召したみなさん … 後進に道を譲ることをお考えになりませんか?

【日本語は天才である】を読む

【日本語は天才である】柳瀬尚紀著:新潮社

昨晩からずっと雨。

【日本語は天才である】柳瀬尚紀著:新潮社(右写真)を読了しましたので、印象に残った箇所を紹介します。

 

… … 無一文字だった日本語は、漢字を手に入れて、今度は独自の片仮名と平仮名を作りました。9世紀には定着した独特の文字です。これ自体は日本語の独創として自慢できるのではないでしょうか。 … P51

… 罵りの下手なことを、罵り語をあまり持ち合わせていないことを、日本語は誇りにしていいのではないでしょうか。 … … 日本語は品がいいのですな。 …P87~88

… おしっぽの「お」にはまた、猫に対する親愛の情もこめています。お爪、おヒゲ、お鼻など、同じ気持ちが自ずとこもる。 … … 「お」一つのこの豊かさは、まず外国語にはないでしょう。おしっぽやお爪は、翻訳不可能だと思います。日本語がこういう「お」をもっているということも、日本語の天才たる一端ではないでしょうか。
… P104

… 味の消滅と方言の消滅とは、密接につながっているのではないでしょうか。 … P155

… 妙なカタカナ語の多用は、思考停止、少なくとも翻訳放棄です。初めて出会った文字を翻訳した古代の人々、初めて出会った外国語を翻訳した明治の人びとのことを、たまにはちらりとでも思い起こす必要があるのではないでしょうか。 … P212

 

著者〈柳瀬尚紀氏〉は、英文学者、翻訳家です。

で、英語の真意を日本人に伝えるとき、どんな日本語が適切かについて、現代語のみならず、文語、漢語と広く深く研究なされています。

そして、その結果が、当著書のタイトル名『日本語は天才である』になっています。

外国語〈著者の場合は英語〉に秀でた方は自国語の長短をよく知る、と言われます。

そのような方が、「日本語は天才である」とおっしゃると、日本人の一人として何だかうれしくなりますな。

適切な日本語を使ったブログ記事にすべく日々精進したいと思っています。

【文章読本】 を読む

【文章読本】丸谷才一著:中央公論社

【文章読本】丸谷才一著:中央公論社(右写真)を読み、印象に残った箇所を紹介します。

 

… 作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、それに盡きる。事実、古来の名文家はみなそうすることによって文章に秀でたので、この場合、例外はまったくなかつたとわたしは信じてゐる。 … P20

… 文章が人間の文化的活動の一つである以上、文化が基本的に持ってゐる遊戯性とすつぱり縁を切ることは不可能なのだ、 … … ただ肝心なのは、 … … 意味の伝達と、論理性が決定的にものをいふといふ不思議な、そして自明この上ない事情である。 … P110

… 誠実という言葉をもし使ふとすれば、それが知性や論理と結びついた姿こそ肝要だろう。当面の狭い論点のなかではどんなに大まじめで立派で純情でも、視野をちょっと広げたり、視角をほんのすこし改めたりすると、たちまち話がをかしくなるやうでは、まして理屈の進め方に無理があつては、読者がそのことに気づいたとたん、筆者は信用を失ってしまふ。 … P225

… 日本語では字面が大事、視覚的な要素が大事である。 … … 最も極端な場合には谷崎〈潤一郎〉のかういふ小説のやうに、凝りに凝ったかたちで目に訴えるのが日本語の文章だといふことを、まづ認識してかかる必要がある。 … P258

… 記すに値することがあってはじめて筆をとれ。書くべきこと、語るべきことがあるとき、言葉は力強く流れるだろう。これこそは人間の精神と文章との極めて自然な関係にほかならない。 … P308

 

奥付に私の字で、 S.52 11/24 と鉛筆書きしてありました。

その日に学生協で買ったのでしょう。

著者〈丸谷氏〉の挙げる例文に文語文が多く、辟易しながら読んだことを覚えています。

今回懐かしく再読しました。

ここ5年ほど毎日のように600字近くのブログ記事を書いているせいでしょうか、45年前と比べ、著者の言わんとしていることが明確に伝わってきました。
〈当時は、ただ … 文章が上手くなりたいな … と、漠然とした気持ちで読んでいたんでしょうな。〉

当ブログ記事で丸谷氏の著書を紹介したのは3度目。
〈1度目は2021  9.3付『【日本語のために】丸谷才一著を読む』 で〉
〈2度目は2022  10.11付 『【ゴシップ的日本語論】を読む』 で〉

よりよい作文が書けることを願う次第です。

【ゴシップ的日本語論】を読む

【ゴシップ的日本語論】丸谷才一著:文藝春秋

【ゴシップ的日本語論】丸谷才一著:文藝春秋(右写真)を読み、印象に残った箇所を紹介します。

 

… もともと日本人は村で生活してゐて、口下手で、呪術的で、情感的であったし、さういふ言語の使い方をしたし、的確で機能的で速度のある叙述の言語をつかふのは苦手であった。ものを考へるとしても、いはば情感的、抒情詩的に考えがちであった。われわれは論説よりも短詩形文学において得意であったし、今でもさうである。 … P67

… 一国の運命は、政治と経済によるだけではなく、言語による所が極めて大きい。あるいは政治と経済を言語が支えている。言語教育は国運を左右し文明を左右する。わたしはさう思ってをります。 … P70

… 人間が言葉を使ふ動物で、そして言葉によっていろいろなことをしてきたし、また、してゐる以上、その言葉の使ひ方の技巧は、人間を研究するための絶好の切り口である。 … … P92

… 夏目漱石の小説がなぜすごいかというと、日本にまだ本格的な小説というものがない時代にロンドンへ行って、当時イギリスで生まれつつあった新しい小説の外観を学び取りながら、日本の現実を見つめて小説を書いた。文学運動の現場で自分も参加して創造していったところがすごい。あとからモダニズム小説を勉強して真似した人とはおよそ程度が違うわけね。漱石の自分で何かを創り出すエネルギーが読者を打つんですね。 … P194

 

丸谷才一氏の著書を当ブログで紹介するのは、2度目です。

1度目は、昨年の9月に紹介しています。
〈2021 9.3付 【日本語のために】丸谷才一著 を読む】〉

丸谷氏については、後輩の川本三郎氏〈評論家〉が、彼の著書【そして、人生はつづく】:平凡社 で次のようにいっています。
… 小説、文芸批評、翻訳。さらに歌や俳句を詠む。書評というジャンルを批評の形式に高める。 … また古典の教養が深かった。 … 『文章読本』を書いた人だけに日本語の乱れには厳しかった。 … … P272~275

 

古典の教養に裏打ちされた正しい日本語とは?

現在『文章読本』丸谷才一著:中央公論社〈昭和52年10月 5版発行〉を再読中です。

私のブログ記事の内容がより伝わりやすくなることを願いつつ。